2015年11月28日土曜日

科学技術の限界・パンドラの箱に残った希望

科学技術の限界
 マンション杭施工偽装の問題が発生していますが,私はこう考えます.
 マンションというものは科学技術で建てられています.
 ですので,施工業者としては科学技術としての「データ」で証明しようとしています.
 しかし,住んでいる人は「データ」を示されても不安は消える事はないでしょう.
住人は「科学技術」に基づいてものを考え,生活しているわけではないからです.

 「不安」を解消する科学技術はいまだ発明されていません.
 なぜなら「不安」は科学技術の範疇ではないからです.
 ですので住民の「不安」を解消するために「科学技術」である「データ」を持って来ても全く役に立たないのは当たり前だと考えます.

 私も分野は異なりますが,エンジニアの端くれ.
 私の分野で「不安」を解消するために行われているのは,問題が発生したばあい,継続的に対応する,という態度示すことと,実際にその行動を行うことです.
 いまだに私は入社直後に製作した設備で不具合や問題があれば相談に乗るし,修理や改善も行います.
 もちろん,今ではそんな事は激減していますが,設備更新を考える段階になり,それまで面倒を見ます.
 それが,不安を解消して安心に変える唯一できることだと理解しています.
 不動産業者(いわゆるデベロッパー)はこのことをよく考え,なにをしなければならないのか熟考する必要があります.

 一方私達も,科学技術に基づいて作られているものを購入している,ということはその科学技術を信じる,ということに他ならない,と理解しなければならないと思います.
 たとえば,杭のデータをみて信用ならない,と言ったところで突き詰めれば高層建築のすべては差こそ有れ,同じ土木技術に基づいて作られているのです.
 「信じない」というのは簡単ですが,意識していないかもしれませんがそれを「信じて」購入したのはユーザーです.
 誠実に行われたものであれば,原理原則を押さえ,その指標として「データ」を用いる科学技術なのですから,疑い始めるときりがないことになりかねません.

極端なことを言うと,自分で建築しない限りはすべてが信じられないことになってしまいます.

パンドラの箱に残った希望
 このように,日本中のマンションで疑心暗鬼となっているわけですが,実はマンションだけではなく,戸建て住宅も同じではないでしょうか.
 ユーザーが自分で確認できないようなものであればすべて同じことが発生すると思います.
 数年前に食品でもありましたから,これは建物に限ったことではありませんね.

 これまで日本人は,職業倫理に従い,「そんな事はしないだろう」と信じてきましたが,今回は「データ」という事実に基づくはずの「科学技術」が扱う人間次第でどうとでも嘘がつける,ということを露見させました.
 メディアによってはそれを「パンドラの箱が開けられた」と表現しているところもあります.
 しかし,大多数のエンジニアは誠実に原理原則に基づいて正直に業務を行っています.
 なぜならモノは嘘をつかないので,嘘をついてもいずれ必ずその嘘が露見し,騒ぎが大きくなるだけとわかっているからです.
 
 パンドラの箱は開けられました.
 ありとあらゆる災厄が解き放たれましたが,箱の中には希望が残されていたはずです.
 今回も希望が残っているのではないかと私は考えます.

 今回のことで多かれ少なかれ建築業界には疑惑をもたれてしまったと考えています.
 では,その疑惑を逆手にとって,自らの価値を高める事はできないでしょうか.
 誠実に施工がされている自信があるのであれば,問題があったときの追加対応を確約してはどうでしょうか.
 問題がなければ費用負担は最少となるでしょうし,その費用負担と誠実な対応によりユーザーが得る安心と,業者への信頼度はお金に変える事はできないほど貴重なものとなるでしょう.
 そのような対応を最初に宣言した業者はおそらく今回の疑惑にあっても,世の中からは高い評価と信頼を得ることとなり,かえって企業の価値が高まるのではないでしょうか.


 夢物語かもしれません.
 しかし,少なくとも私は,解決には結びつかない「データ」を持って住民の「不安」を解消させようと躍起になって費用を使うより,よほど前向きで効果があるのではないかと思うのです.

 
 

 
 
 
 

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